工場建設における概算工事費とは、詳細な設計図が完成する前の企画・基本計画段階で算出される、おおよその建設費用のことです。工場建設の成功には、計画初期段階における正確な概算工事費の把握が不可欠です。
この記事では、工場建設における概算工事費の基本的な考え方、概算工事費の算出方法、金融機関などの説明資料の作成方法などを紹介しています。
工場の建設や建て替えをご検討中の方や設計事務所や建築会社をお探しの方は、「建築発注者様向け ビル・工場・店舗等の企画・設計」のサービス紹介ページもあわせてご覧ください。
工場建設の概算工事費とは?
工場建設における概算工事費とは、詳細な設計図が完成する前の企画・基本計画段階で算出される、おおよその建設費用のことです。
概算工事費は、工場建設事業の初期段階で予算規模を把握し、資金調達の見通しを立てたり、プロジェクトの実行可否を判断したりするための目安となります。
一般的には、概算工事費は建物の構造(鉄骨造など)、延床面積、大まかな仕様に基づいて、過去の類似事例や統計データから導き出される単価(坪単価や㎡単価)を用いて算出されます。
工場建設費の概算工事費には通常、建物本体の建築費や基本的な設備工事費が含まれます。しかし、特殊な生産設備の導入費用や特殊な内装工事などは含まれない場合が多いため、その内訳を事前に確認しておくことが重要です。
工場建設の概算工事費を削減するための4つのポイント
工場の建設や建替えを計画する際、さまざまな与件や要望などによっていつの間にかコストが増加し、予算内に収まらずなかなか着工できないというケースも多くあります。
このパラグラフでは、工場の計画・設計のプロとしての経験を踏まえて、建設コスト削減に効果的な4つのポイントを紹介します。
ポイント1:適切な平面と高さ計画を検討することで、工場建設費削減につながる
工場建替え計画における最初のステップは、新しい工場の具体的な規模、すなわち必要となる平面的な広さと建物の高さを明確に定めることです。工場建設の初期段階で適切な平面と高さの計画とすることで、無駄なコスト発生を防ぎ、建設費削減の第一歩となります。
平面計画では、現有・将来設備を考慮した最適な配置と動線計画が重要です。これにより、スペース効率を高めて過大な建築面積を避け、材料費や基礎工事費を抑制できます。将来のレイアウト変更も見越した計画とすることなどで、長期的なコスト削減に繋がります。
高さ計画も建設費に影響します。設備に必要な高さを正確に把握し、エリア毎に最適な天井高を設定することで、過剰な建築容積とそれに伴う構造材・建設コストの増加を防ぎます。
無駄な空間は空調等のランニングコスト増にもつながるため、トラックの高さなどを考慮するなどの物流面の要求を満たしつつ、必要最小限の高さに抑える検討がコスト削減に不可欠です。
ポイント2:工場運営に必要となる空間にあわせた構造種別を選択し、適正な工事費を実現する
建物の規模が決まった次に重要な検討事項は、建物の構造種別、すなわち工法の選定です。工場建築では、生産ラインの自由度や作業効率を高めるため、柱や壁が少ない広大な空間が求められることが多く、選択する工法が建設コストや工期、そして実現できる空間の質に大きく影響します。適切な工法を選ぶことが、コストパフォーマンスの高い工場建設の鍵となります。
工場建設に用いられる代表的な工法としては、鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨造(S造)、木造が挙げられます。これらの工法は、それぞれ材料費、工期、設計の自由度、耐久性が異なり、結果として総工費にも差が生じます。
鉄筋コンクリート造(RC造)は耐久性に優れますが、工期が長くなりがちで人件費や仮設費が増加する可能性があります。
木造(W造)は材料費が比較的安価で工期も短縮できますが、大スパンの実現には不向きで、柱や壁が多くなると建築面積が増えたり、特殊な設計が必要になったりして、必ずしも最も経済的とはいえませんでした。
ただし、近年の法改正により、大空間の実現が可能となり、木造活用の可能性が高まっています。環境配慮や木材活用に関する補助金活用の一環で採用が現実的になってきました。詳しくは「中層木造ビル(耐火木造)とは?建築基準法改正や工法、メリットを紹介」の解説記事をご覧ください。
鉄骨造(S造)は部材を工場生産し現場で組み立てるため、工期短縮による人件費削減が期待できます。また、長いスパンを飛ばせるため、柱の少ない効率的な大空間を少ない部材量で実現しやすく、これがコストメリットにつながる場合があります。工場のような広い空間が必要な場合に、コストと機能のバランスが取りやすい工法です。
このように各工法の特徴を、工場に求められる経済性(コスト)、工期のスピード感、大空間の実現性という観点から比較検討すると、鉄骨造が多くのケースで、要求される機能に対して適切な工事費を実現する、バランスの取れた選択肢となりえます。
ポイント3:統計データを参考に工場建設の工事費の相場(㎡単価・坪単価)を算出する
工場建替えプロジェクトの実現性を判断する上で、建設にかかる工事費は極めて重要な要素となります。最終的な工事費は、詳細な設計図を元に施工会社が見積もりを行って初めて確定しますが、計画の初期段階においては、概算工事費を把握しておくことが事業計画や資金計画を進める上で不可欠です。
概算工事費を算出するための一つの参考情報として、国土交通省が定期的に公表している「建築物着工統計」を活用することができます。この統計データには、日本全国で着工された建物の工法別(鉄骨造、RC造、木造など)や用途別(工場、事務所、住宅など)の着工数、延床面積、そして工事予定額などがまとめられており、大まかな費用感を掴むのに役立ちます。
令和5年度の統計によれば、工場用途で建てられた建物数は5,803棟だったようです。工法別の棟数は下記のとおりです。
構造種別 | 着工棟数 | 割合 |
鉄骨造 | 4,775棟 | 82.3% |
木造 | 803棟 | 13.8% |
鉄筋コンクリート造 | 88棟 | 1.5% |
また、同統計データから、構造種別ごとの平均的な施工単価(工事予定額の合計 ÷ 延床面積の合計)を算出した単価をまとめたのが下記の表となります。また、実際は概算算出時は坪単価を活用することが多いので、坪単価に換算して現在の市況を見込んだ見込み単価もあわせてご覧ください。
構造種別 | 令和5年の㎡単価 | 予算化用の参考坪単価 |
鉄骨造 | 34.5万円/㎡ | 120~150万/坪 |
木造 | 19.3万円/㎡ | 100~150万/坪 |
鉄筋コンクリート造 | 91.0万円/㎡ | 150~200万/坪 |
ポイント4:工場建設の概算工事費を元に金融機関に相談し資金計画を立てよう
工場建設に必要な概算工事費の目処がついたら、その金額を基盤として、次に取り組むべきは具体的な資金計画の策定です。算出した概算工事費をどのように調達するかを計画する必要があり、自己資金で全てを賄えない場合は、多くの場合、金融機関からの融資を活用することになります。
金融機関に融資を相談する際には、算出した概算工事費が具体的な借入希望額の根拠となります。概算工事費と、建替えによる事業へのプラス効果(生産能力向上、事業継続性確保など)を示す説得力のある事業計画書、そして具体的な建築計画書を合わせて提示することが不可欠です。
ただし、概算工事費に基づいた計画が優れていても、その全額の融資が保証されるわけではありません。計画の実現可能性は、最終的に概算工事費に見合う資金を確保できるかにかかっています。実際に、概算工事費を基に詳細な計画を立てた後、金融機関から想定額を大きく下回る融資しか提示されず、計画断念に至ったケースもあるため注意が必要です。
このようなリスクを避けるため、概算工事費が算出できたら、できるだけ早い段階でその金額を元に金融機関へ相談することが極めて重要です。概算工事費に対する融資の可能性や上限額について感触を得ることで、計画初期から現実的な予算規模を把握し、資金計画との乖離による手戻りを防ぐことができます。
詳しくは、「工場建設の資金計画とは?銀行融資や補助金、建設前後の資金繰りを解説」をあわせてご覧ください。
まとめ:工場の建替を成功させるために、工事費と資金の両面から計画を立てよう
工場建設を成功させるためには、適切な方法での概算工事費の算出は不可欠です。適切な工事費・建設予算を立案するためのポイントは以下の通りです。
- 概算工事費は、企画・基本計画段階で算出される建設費用の目安であり、予算確保や意思決定の参考指標になりうる
- 工場建設・建替えは初期の計画と予算策定が重要であり、精度の高い概算工事費の把握が不可欠
- 適切な工場の規模(平面・高さ)を計画することが、コスト削減と機能性確保の両立につながる
- 工場の運営から必要となる要求(コスト、工期、空間)に基づき、鉄骨造など最適な建設工法を選定することが重要
- 建物計画と資金計画の両面から検討し、プロジェクトを推進することが工場建設の成功につながる
長沼アーキテクツでは、工場建替を検討する会社や工場経営者への豊富なサポート実績があります。工場建設に伴う事業収支計画の立案のサポート、建築計画の作成と概算工事費算出支援、それを実現する資金計画までサポートが可能です。お問い合わせフォームより、お気軽にご相談ください。
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