中層木造ビル(耐火木造)とは、主要な構造部分に木材を使用しつつ、建築基準法で定められた耐火性能基準・構造安全性を満たすように設計・建設された建築物で、3階・4階建てから9階建て程度の中層ビルのことを指します。
従来の木造建築は低層住宅が中心でしたが、2019年や2025年の建築基準法の改正や木造工法の技術革新により、中高層や超高層の木造ビルが実現可能となりました。そのため、ビルや工場、店舗などの法人向けの施設においても注目を集めています。
この記事では、木造ビルの概要、中層ビルが可能となった耐火建築物などの建築基準法の改正内容、SE構法やCLT工法などの木造の各種工法・製品、木造を採用するメリット、木造ビルの事例などを紹介しています。
ビル・工場・店舗などの建設をご検討の方や、木造の導入・採用も含めた自社にメリットある建築方法をご検討の方は、「建築発注者様向け ビル・工場・店舗等の企画・設計」のサービス紹介ページもあわせてご覧ください。
木造ビル(耐火木造)とは?
木造ビル(耐火木造)とは、主要な構造部分に木材を使用しつつ、建築基準法で定められた耐火性能基準・構造安全性を満たすように設計・建設された建築物のことです。
かつて中層以上の木造ビルの建設は、建築基準法における耐火建築物に関する規定や構造強度に関する制限などが障壁となり、3階建てを超える中高層の木造建築は事実上難しい状況でした。しかし、2019年や2025年の建築基準法改正により規制が緩和され、一定の条件下で中高層木造建築物を建てることが可能となりました。
さらに近年では、脱炭素社会への移行や国産材活用といった社会的な要請を背景に、環境性能に優れた木造建築への関心が高まり、国や自治体による補助金制度も充実してきたことで、コストメリットも受けやすくなっています。
このような法改正による規制緩和や社会的ニーズの高まりを受け、中層以上の木造ビルの需要は増加しており、長沼アーキテクツにも、木造ビル実現に向けたご相談やご依頼が増加しています。

木の温もりを活かしたデザイン性の高い建築物を実現できるようになりました
中層木造が可能となった建築基準法の改正
中層木造の建設が可能となった背景には、2019年および2025年に施行された建築基準法の改正が大きく影響しています。かつて木造建築は低層に限定されることが一般的でしたが、法改正によって、中層以上の木造ビルが実現できるようになりました。
法改正以前は、3000㎡超の大規模建築では壁・柱等は耐火構造とする必要がありましたが、法改正によって「燃えしろ設計法」を活用することで木材のあらわしが可能になりました。さらに、階数に応じて要求される耐火性能基準が合理化されたことで、特に5階から9階建ての中層建築物への木材利用の促進が図られる形となりました。
また、法改正以前は耐火性能が求められる大規模建築物においては、壁・柱等の全ての構造部材を例外なく耐火構造とする必要があり、部分的な木材使用がしづらい状況でしたが、法改正によって防火上・避難上支障がない、防火上区画された最上階の屋根や柱、はりなど、メゾネットなどの中間階の床や壁・柱などで木造化が可能となりました。
これらの法改正によって、中大規模建築での木材利用がより容易となりました。特に5階建てから9階建ての木造建築物がより現実的な選択肢となったことで、計画段階で木造ビルが検討される場面が増えています。
国土交通省の「改正建築基準法について」より。法改正よる中大規模建築物の木造化を促進する防火規定の合理化についてまとめられています
中層木造ビルに採用される主要な工法・製品
中層木造ビルの実現に向けて、様々な工法や製品などが開発されています。このパラグラフでは、中層木造ビルに採用される主要な工法・製品として、KES構法、SE構法、CLTパネル工法を取り上げ、それぞれの特徴や主な用途について解説します。
KES構法|独自の接合技術の開発により、木造ビルにおいて大空間・大スパンを実現
KES構法(Key Element System)は、株式会社シェルターによって1970年代に開発された独自の接合金物工法で、ラーメン構造にも対応可能です。中高層の建築プロジェクトで多くの実績があります。
独自開発の金物による接合部の高い強度と耐震性が最大の強みです。最大スパン23mの事例があり、大スパン・大空間の設計自由度が高く、木質耐火部材「COOL WOOD」と組み合わせることで最大3時間の耐火性能を実現することも可能です。
導入にあたっては、シェルター社に構造設計から部材供給まで対応してもらえますが、施工会社の認定制度はなく施工実績のある会社が限られるため、品質を確保するためには発注者側で対応可能な施工会社を探し、選定することが重要となります。
KES構法は、長年の実績により裏打ちされた信頼性と、木のあらわしデザインを可能にする耐火技術を両立させており、中高層の建築プロジェクトに適した工法です。詳細は、株式会社シェルターのKES構法の紹介ページをご覧ください。

SE構法|構造設計から施工まで一貫したサポートにより、品質保証と自由な設計を実現
SE構法(Safety Engineering構法)は、株式会社エヌ・シー・エヌ(NCN)によって1997年に開発された、構造用集成材と独自金物による木造ラーメン構法です。住宅での利用がよく知られていますが、中層建築物においても多くの実績があります。
高い耐震性能が最大の強みで、全棟で大規模建築物と同様の構造計算を実施し安全性を証明しています。ラーメン構造により耐力壁を減らせるため、柱の少ない大空間や大開口といった自由度の高い設計が可能です。
導入にあたっては、エヌ・シー・エヌ社が構造設計から部材供給、施工会社との連携までを一貫して行っており、認定を受けた「SE構法登録工務店」に施工が限定されるため、発注者や設計者にて契約予定エリアで認定を受けている施工会社を探し、選定しておくことが重要となります。
SE構法は、ラーメン構造による設計自由度に加え、エヌ・シー・エヌ社による一貫したサポートもあるため、保証された品質と自由な設計を両立したいプロジェクトに適しています。詳細は、株式会社エヌ・シー・エヌのSE構法の紹介ページで確認できます。
また、SE構法の得意分野である住宅における評判や活用事例については「SE工法(SE構法)とは?メリット・デメリット、費用の相場、工務店の探し方やおすすめの工務店を紹介」の記事をあわせてご覧ください。

CLTパネル工法|木質構造材料のひとつして、木造建築物の強度・安定性・耐火性能を大幅に向上
CLT(Cross Laminated Timber)は、ひき板を繊維方向が直交するように積層接着した厚物パネルを用いた木質系材料で、主にパネル工法単体や軸組み工法との組み合わせる形で利用されます。2016年の建築基準法改正によって、CLTの一般利用が可能となり、中層建築物などへの普及が進んでいます。
CLTの強みとしては、工場でのプレファブリケーション(事前製作)による工期の短縮や省力化など施工性の高さが挙げられます。壁式構造だけでなく、床や壁など部分的にCLTを利用したRC造・S造とのハイブリッド構造も多く採用され、木材をあらわしにした意匠性の高い空間を実現できます。
導入にあたっては、構造設計や施工を特定の事業者が一貫して担うシステムではないため、発注者側でCLTの構造設計に対応できる設計者や、施工実績のある建設会社を探し、適切に連携・管理していく必要があります。
日本においてもCLTを構造材料として利用するための一般的な設計法や関連告示が整備されたことにより、CLT利用のハードルが下がり、今後も中層木造ビルなどでの利用が加速することが想定されます。詳しくは、日本CLT協会のCLTの解説ページをご覧ください。

木造ビル(耐火木造)採用の3つのメリット
木造ビルを採用するメリットとして、工期短縮やコスト削減、節税効果や環境負荷の低減などが挙げられます。このパラグラフでは、木造ビルを実際に計画・設計した長沼アーキテクツの経験から、お客さまが木造ビルを採用した際のメリットを紹介します。
メリット1:木造化による建物の軽量化やプレハブ化による工期の短縮が期待できる
中層ビルの建設において、木造を採用することで、構造体が軽くなるため基礎工事が簡略化され、またプレファブリケーションによる現場作業の効率化なども加わり、作業工程が大幅に簡素化されるため、全体の工期短縮につながります。
木造ビルは、鉄筋コンクリート造(RC造)に比べて建物全体の重量が大幅に軽くなるため、基礎への負担が小さくなります。そのため埋立地など軟弱地盤でも通常のべた基礎で十分に対応でき、RC造で必須となる杭基礎が不要となるケースも多く、基礎工事にかかる時間を短縮することが可能です。
さらに使用される木材の多くは、工場であらかじめ部材を製作して現場で組み立てるため、現場作業の効率化に伴う工期短縮が期待できます。ただし、このメリットを最大限に引き出すためには、設計段階から製造、輸送、現場での施工に至るまで、従来以上に綿密な計画と関係者間の調整が重要となります。
木造ビルの導入にあたっては、計画遅延や連携不足といったリスクを最小限に抑えるために、事前に十分な計画・準備を行い、関係者同士の密な連携体制を築くことによって、木造を採用するメリットである工期短縮の実現が可能となります。


工場で加工された部材を現場で組み立てるプレハブ化による作業現場の様子。現場での加工工数が大幅に縮減されるため、適切な計画のもとで進めることができれば工期短縮が見込めます
メリット2:木質化や脱炭素を目的とした補助金の活用などにより、コストメリットが見込める
中層ビルで木造採用のメリットを高める方法として、CLTをはじめ木造建築物の建設・整備の支援を目的とした補助金や助成制度の活用があげられます。
木材利用の推進や脱炭素を目的として、国や地方自治体が実施している補助金や助成制度を活用することで、初期投資である建設費用の負担を軽減することができるため、事業全体の資金繰りの改善につながります。
また、木造を実現するための各種構法・工法は、普及前の段階にあるため、現時点では木造とその他構造を比較すると、建設コストが同等もしくはやや割高になるケースも考えられます。今後木造ビルの需要が高まることで、材料費が安くなることが期待されています。
現時点における木造ビルは、積極的な補助金や助成制度の活用を行っていくことで、コストメリットが期待できます。
活用できる補助金・助成金の例
補助金・助成金名 | 支援イメージ |
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CLT等を活用した建築物の実証事業(林野庁) | 林野庁管轄の「非住宅・中高層建築分野での木造・木質化の実現に向けた、CLT建築の普及と活用の促進」を目的とした補助金で、建築主や協議会運営者(設計者や施工者などの申請者を指します)が対象者となる補助金です。 CLTを活用した建築の施工、設計手法の検証、部材の性能確認を行う実証事業が対象事業になり、設計料も負担される他、実証事業の実施にあたり設置される「協議会」の運営費も定額で助成されます。事業費の3/10または1/2が補助対象額であり、上限金額の最大は1億円です。 申請は建築主と協議会運営者の連名が対象ですが、設計者や施工者、関連専門家が協議会メンバーとして申請を支援可能です。提出にあたっては、設計図や工法比較資料(RC造などとのコスト・工期の比較)などの書類が必要となります。一次募集が毎年春頃に行われ、近年では補正予算による追加募集が夏頃に行われています。 |
都市部における木材需要の拡大事業 (林野庁) | 林野庁管轄の「非住宅建築物や、4階建て以上の住宅においての木材利用の普及」を目的とした補助金で、施主、設計者、施工者、木材関連事業者が対象者となる補助金です。 木質耐火部材等(CLTなどの耐火・準耐火性能を持つ木質部材)、JAS構造材、内装材、木製サッシの4項目の調達費や一部加工・運搬費が補助対象となります。項目ごとに1,000万~3,000万が上限(木製サッシは100万)となっており、補助金額は使用する木材の種類や量、面積、または調達費に基づいて計算されます。 申請は、施工関係者が対象ですが、3棟以上申請する場合は他の都市木利用拡大宣言事業者と共同での申請が必要です。提出にあたっては、事業申請書や建築主の同意書、各種図面、見積書、建築確認申請書の写しなどが必要となり、3棟以上の場合はクリーンウッド法関連の追加書類が必要になります。毎年7月~10月にかけて募集があり、予算に応じて追加募集が行われることもあります。 |
優良木造建築物等整備推進事業(国土交通省) | 国土交通省管轄の「中大規模木造建築物の普及および木造化技術の促進」を目的とした補助金で、建築主や建築主を代表者とする共同事業者などが対象となる補助金です。 住宅・事務所で4階建て以上のものや非住宅建築物が対象であり、主要構造部が木造であることや、省エネ性能がZEH、及びZEB基準を満たすことなどが条件であり、2億を上限に補助がでます(普及枠)。さらに、木造化に係る先導的な設計・施工技術が導入されることなどの追加条件を満たす場合、上限費が3億となり(先導枠)、木造化に係る費用の1/2、建設工事費(木造化による掛増し費用相当額)の1/3または1/2などが補助対象費となります。 申請は、建築主が対象ですが、建築主と代理契約を交わした者(設計者や施工者などが該当する場合があります)が申請を支援可能です。提出にあたっては、建築関連の資料では木材の使用箇所を示す平面図や断面図を含む木造化の取組内容に関する書類や、木造化に伴って発生した費用の算定書が必要となり、申請受付は毎年4月頃に第一回が開始され、6~7月に採択されます。 |
※2025年5月末時点の情報です。
メリット3:木造の減価償却期間の短さを利用した、節税効果も期待できる
オフィスビルを法人所有で建設する場合、建物の構造に木造を採用することで、減価償却における償却年数を短くすることができ、1年あたりの償却額を増やすことが可能です。
事業用建物の減価償却は、構造種別や用途によって定められた税法上の法定耐用年数によって変わります。木造の事務所ビルの場合、法定耐用年数は24年とされており、鉄骨造(耐用年数38年)や鉄筋コンクリート造(耐用年数50年)よりも、年間に計上できる減価償却費が大きくなります。
毎年安定的な収益が見込める場合や、これまで支払っているオフィス賃料との多寡を考慮することで、節税効果を高めることも可能です。適用にあたっては、税理士・会計士と建築士の双方に相談したうえで、適切な利益計画のもとで建設計画を推進しましょう。
工事費3億円の4階建て事務所ビルの場合、構造種別ごとの償却金額の比較(定額法)
構造種別 | 耐用年数 | 年間償却費 |
---|---|---|
木造 | 24年 | 約1,250万円/年 |
鉄骨 | 38年 | 約790万円/年 |
RC造 | 50年 | 約600万円/年 |
中層木造ビルの先行事例・実績
本サイト「施設建築の設計・改修ガイド」の運営者である長沼アーキテクツが、実際に支援を行っている中層木造ビルについて、木造を選定した背景やポイントをまとめています。
木造ビルでのZEB認証を取得を目指した本社ビルプロジェクト
木造による本社ビルの新築事例です。お客さまの当初の要望は、「環境や社会に配慮した建物を実現し、ZEB認証を取得したい」というものでした。
長沼アーキテクツは、お客さまの要望を実現する方法として、ZEB認証の取得にも相性のよい木造ビルを提案しました。お客さまは、木造建築が持つ環境性能の高さや完成後の話題性や企業イメージの向上なども加味し、木造案を提案した長沼アーキテクツを設計者として指名しました。
現在は設計段階のプロジェクトですが、木造の採用にあたっては、まだまだ事例の少ない国内木造建築の事例見学にお客さまを案内をしながらイメージを固めるとともに、ZEB認証の取得や補助金申請などに向けた各種手続きを進めています。
本記事で紹介したSE構法を採用とし、2026年度の完成を目標にプロジェクトを進めています。木造での自社施設をご希望の方は、具体的な進め方などもご案内可能ですので、お問い合わせフォームより、お気軽にご相談ください。
まとめ:木造採用のメリットを理解して、中層木造ビルを実現しよう
中層木造ビルは、法改正や技術進展を背景に、工期短縮・コスト・環境面など多くのメリットがある現実的な選択肢となっています。これらのメリットを最大限に活かした木造ビルを実現するためのポイントは以下の通りです。
- 中層木造ビルとは、主要な構造部分に木材を使用しつつ、建築基準法で定められた耐火性能基準・構造安全性を満たすように設計・建設された建築物のことである
- 2025年の建築基準法の改正により、特に5階建てから9階建て程度の中層木造ビルの実現が容易になった
- 中層ビルを実現するための代表的な工法として、KES構法、SE構法、CLTパネル工法などがあげられる
- ビル等に木造を採用することで、工期短縮や補助金活用による費用対効果の改善などのメリットが期待できる
- 木造建築の税法上の短い耐用年数を活用することで、減価償却期間の圧縮による節税効果も期待できる
長沼アーキテクツは、事務所、工場、店舗などの建築企画・設計支援を行っています。木造ビルや工場、各種施設などの新築・建替えをご検討中の方は、お問い合わせフォームより、お気軽にご相談ください。
木造ビル(耐火木造)に関する事例・リンク
ビル・工場・店舗など事業者向けに建築企画や設計に関するサービスをまとめたページです。サービス導入のメリットやサポートイメージ、ダウンロード資料や価格表など、検討段階に役立つ情報をまとめています。
ダウンロード資料:会社案内・サービスのご案内(ビル・工場・店舗等の事業者様向け)
自社ビルやビルオーナー、工場・店舗などの事業者向けに、建築企画・設計に関するサービスをまとめた資料です。長沼アーキテクツの強みやサポート内容に加え、実際に企画・設計を行った法人施設の事例を写真付きで紹介しています。参考資料や検討資料としてご活用ください。